足の筋肉や靭帯、骨は、加齢とともに衰えていきます。背中を丸めてダランと立ち、歩くときも足をあまり上げずペタペタ歩いているようでは、足の機能が衰えるばかりです。悪い立ち方や歩き方をしていると、足の骨が変形していきます。この骨の変形を起点に、さまざまな足のトラブルが起こってくるのです。
【解説】高山かおる(埼玉県済生会川口総合病院皮膚科主任部長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

高山かおる(たかやま・かおる)

埼玉県済生会川口総合病院皮膚科主任部長。東京医科歯科大学附属病院臨床准教授。1995年、山形大学医学部卒。日本の大学病院では稀有な皮膚科のフットケア外来を開局する。難治性の巻き爪、陥入爪、肥厚爪、タコ、ウオノメなどの疾患を抱える患者に対して、トラブルの根治を目指した、原因の追及、診察、専門治療のほか、セルフケアの指導を行う。フットケア師によるフットケア、オーダーメイドのインソール作製などによる免荷療法など、それぞれの専門家と連携を取りながらの保存的治療も積極的に導入している。専門は、接触性皮膚炎、フットケア、美容。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
▼埼玉県済生会川口総合病院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

足のアーチの崩れが骨の変形を起こす

全身の約4分の1の骨が足に集中

私たちは、この小さい足で全体重を支えています。しかも、歩いたり走ったりして、足には常に大きな負荷がかかっています。
人間の体には全部で200個ほどの骨があるといわれ、そのうちの約4分の1は足の骨です。片方の足に合計28個、両足合わせて56個もの骨があるのです。趾骨、中足骨、足根骨の3つの骨群は、バランスよく足の機能を分担しています。

画像: 全身の約4分の1の骨が足に集中

足裏のアーチとは? その役割は?

足を構成する骨は、かかと、足の第1指(親指)のつけ根、第5指(小指)のつけ根の3ヵ所を基点に、山なり型のアーチ状に配列されています。
足のアーチは3つあります。かかとから足の第1指のつけ根を結ぶ「内側の縦アーチ」、かかとから第5指のつけ根を結ぶ「外側の縦アーチ」、第1指から第5指までの5本の指を横に結ぶ「前方の横アーチ」です。この3つのアーチがあることで、体重は、かかと、足の第1指のつけ根、第5指のつけ根の3点に分散されて支えられます。

足のアーチはしなやかで弾力があり、衝撃に耐える強度を持っています。地面に足が着地したとき、足には強い力がかかりますが、足のアーチがバネのようにしなって、地面からの衝撃を吸収します。足だけでなく、ひざ関節や腰などへの負担も軽減するのです。
また、私たちが歩くとき、重心はかかとから足の外側に移り、第5指のほうに移動します。そして、足の第5指から第2指(人さし指)の4本で地面をつかむように踏み締め、第1指で蹴って前に進みます。一連の動きのなかで、バランスを維持したり、体重移動をスムーズにしたり、足の第1指が強く蹴り出せたりするのは、足のアーチがバネのように働いているからです。

画像: 足裏のアーチとは? その役割は?

足のアーチが崩れてしまうと、足の機能は著しく損なわれます。ここでは、骨の変形によるトラブルについて、症状と予防・対策法を順にご紹介していきます。

開張足・浮き指とは? 

足指が横に広がる・地面に着かない

前方の横アーチが崩れて、足の指が横に広がった状態が開張足です。浮き指は、足指が地面に着かずに浮き上がった状態で、開張足の症状の1つとして現れます。開張足も浮き指も、これだけなら病気(足病変)とはいえませんが、放置するとさまざまな足病変を引き起こします。
開張足はハイヒールやパンプスを履く女性に多く、女性のほぼ9割は開張足の傾向があります。今まで履いていた靴の横幅がきつくなったり、足の甲が広がったように感じたりしたら、開張足を疑ってもいいでしょう。

足裏にタコやウオノメができる

開張足になると足の指が使えないので、「ペタペタ歩き」になりがちです。足をあまり上げず足裏全体を地面にペタペタ着けたり、足を引きずったりする歩き方です。この歩き方が、さらに横アーチを崩す原因になります。
アーチが崩れると、地面からの衝撃を吸収できなくなるため、足裏の指のつけ根にタコやウオノメができたり、足が疲れやすくなったりします。足首やひざを痛める原因にもなります。
開張足の人が、窮屈な靴を履いて足に負荷をかけ続けると、外反母趾や内反小趾、巻き爪、ハンマートゥ(足の第1指以外の指の骨が「く」の字状に曲がって固まった状態)を発症することがあります。
開張足の原因として、間違った歩きぐせ、運動不足による足裏の筋力の低下、肥満による負荷の増大、靴の問題などが挙げられます。例えば、かかとの高い靴を履くと、前足部でバランスを取ろうとして、重心が前に移動します。すると、横アーチに無理な負担がかかり、その疲労を放置するとアーチが崩れていくのです。

画像1: 足裏にタコやウオノメができる
画像2: 足裏にタコやウオノメができる

開帳足・浮き指の予防と対策

開張足も浮き指も、軽症のうちなら、ひも靴のひもをきちんと結んで履くだけでも改善します。アーチをサポートするインソールの活用や、アーチの崩れを防ぐテーピング法も効果的です。また、足の腱や筋肉を鍛えるストレッチやエクササイズをするといいでしょう。

画像: 開帳足・浮き指の予防と対策

扁平足とは?

かかとが内側に傾く・片足立ちが苦手

扁平足は、土踏まずを形成する内側の縦アーチが崩れて、足裏が平らになった状態です。誰でも乳幼児のころは扁平足で、成長するにつれて形成されます。

中年以降に発症する扁平足では、内側のくるぶしの下あたりが腫れてきて、痛みの出ることがあります。縦アーチがないために足の裏全体の血管が圧迫されて、血行も悪くなります。それが、足のむくみや冷え症の原因になります。大人になってからの扁平足は、運動不足や加齢による筋力の低下、腱のゆるみ、肥満による負荷の増大など、いくつかの原因が考えられます。

扁平足は、かかとの骨が内側に傾いているので、足にうまく体重をかけることができず、片足立ちをしにくいのが特徴です。この状態が続くと、足首やひざ、腰に負担がかかり、腰痛やひざ痛の原因になります。扁平足が疑われたら、整形外科などの専門科を受診してください。

画像: かかとが内側に傾く・片足立ちが苦手

扁平足の予防と対策

足の筋力を鍛える「ゆるゆる屈伸」や、内側の縦アーチをサポートするインソールが有効です。肥満の人は、体重を適正体重に落とします。

画像: 扁平足の予防と対策

外反母趾とは?

親指の付け根や内側が硬くなる

外反母趾は、足の第1指のつけ根の関節が外側に飛び出し、第1指が第5指側に曲がってしまう足病変です。開張足にしばしば合併します。

画像1: 親指の付け根や内側が硬くなる

足の第1指の関節は、もともと少し外側に曲がっています。その角度が15度未満なら正常範囲ですが、15度以上になると外反母趾と診断できます。15〜25度未満なら軽度、25〜40度未満なら中等度、40度以上になると重度です。重度になると、足の第1指が第2指の上に乗ったり、下にもぐり込んだりします。

画像2: 親指の付け根や内側が硬くなる

軽度のうちは気付きにくいのですが、足裏の第1指のつけ根(母趾球)にタコができたり、第1指の内側が硬くなったりしていたら、外反母趾の可能性があります。進行すると、曲がった部分が靴に当たってタコができたり、炎症を起こして赤くなったり、熱を持って腫れたりします。

外反母趾で痛みがあるのは、靴などで足が圧迫されているときか、変形が進行している軽度から中等度の段階です。この時期に対処しておけば、痛みはなくなり、進行が抑えられて骨の変形も最小限ですみます。骨の変形が進むと、歩行が困難になるだけでなく、首や肩のこり、腰痛、ひざ痛など、影響が全身に及びます。放置したまま痛みがなくなった場合は、変形した足の矯正は困難になります。

原因は靴だけではない!

外反母趾の原因は、歩き方や立ち方の悪いくせ、運動不足、肥満、加齢などです。X脚などで足が内側に倒れると、第1指に負荷がかかり、外側に曲がっていきます。

また、ペタペタ歩きのように足の第1指で蹴り出さない歩き方をしていると、足の第1指の筋力が落ちます。そこに、つま先の狭い靴やハイヒールを履くと、指が圧迫されて足の第1指や第5指がますます曲がっていきます。外反母趾は靴だけのせいだけではありません。根本にあるのは、足裏や足指の筋力が低下して靭帯などがゆるみ、横アーチの崩れが生じることなのです。

外反母趾の予防と対策

正しい歩き方・立ち方(リンク)を身につけるとともに、軽度から中等度までの人なら、足の指を鍛える「足指ストレッチ」などをおすすめします。また、横アーチを補正・保護するサポーターやテーピングも効果があります。
重度の人には、運動療法はあまりおすすめしません。インソールやコンフォートシューズを導入して、足に負荷がかからないようにします。

画像1: 外反母趾の予防と対策
画像2: 外反母趾の予防と対策

内反小趾とは?

小指が内側に曲がったりねじれたりする

内反小趾は、足の第5指の関節が内側(第1指側)に向かって変形した状態です。女性の場合は開張足で外反母趾と合併することが多いのですが、ガニ股(O脚)の男性にもよく見られます。ガニ股歩きは、足の外側に重心がかかるため、外側の縦アーチが崩れ、足の第5指が第1指側に変形(内反)しやすくなるのです。

画像1: 小指が内側に曲がったりねじれたりする

足の第5指の内反する角度が10度以上になると、内反小趾と診断されます。20度以上の変形なら中等度、30度以上なら重度です。20度以上で足の第5指がねじれて爪が外側を向いていたり、足の第5指が第4指に重なっていたりしたら、要注意です。

画像2: 小指が内側に曲がったりねじれたりする

指先や指の間にウオノメができることも

内反小趾は外反母趾ほど痛みませんが、靴に当たる部分に炎症を起こしたり、タコやウオノメができて痛んだりすることがあります。足の第5指のつけ根(小趾球)にタコや、第5指の外側にウオノメができていたら内反小趾の可能性があります。第4指と第5指の先端や、その指の間にもウオノメができることがあり、これは強い痛みを伴います。
原因は、足の外側に負担をかける悪い歩きぐせが多いようです。それに、運動不足や加齢による筋力や靭帯の衰え、靴の問題などが関わってきます。

内反小趾の予防と対策

基本的には外反母趾と同じです。軽度から中等度までの人なら、アーチの崩れを防ぐテーピング法や足の腱や筋肉を鍛えるストレッチやエクササイズをするといいでしょう。足裏や指の関節を緩め、指の筋力を鍛える「ゴルフボール握り」もおすすめです。重度の人は、インソールやコンフォートシューズで足に負荷がかからないようにします。

画像: 内反小趾の予防と対策

ハンマートゥとは?

足の指先が「く」の字に曲がる

足の第1指以外の足の指の関節が「く」の字に屈曲して拘縮した足病変が、ハンマートゥです。つま先がハンマー(かなづち)のように曲がるので、この名がつきました。たいていは開張足や外反母趾と合併します。
足指が屈曲すると、指が動かないので、だんだん曲がった状態で指が固まります。すると、曲がった関節や指先が靴に当たり、足裏の指のつけ根は靴底に接して、そこにタコやウオノメができます。ハンマートゥがつらいのは、このタコやウオノメが強い痛みを引き起こすことです。進行すると、指の屈曲の角度が大きくなり、ますます靴に当たります。

サイズの合わない靴で指が曲がる

原因は、開張足や外反母趾と同じように、歩き方や立ち方の悪いくせの蓄積です。さらに、ハイヒールやサイズの合わない靴が、症状を悪化させます。例えば、ハイヒールを履くと、靴の中で足が前にすべるので、足指に余計な力が入って指が曲がります。その状態で長く歩くと、指が曲がったまま拘縮してしまいます。窮屈な靴、つま先の細い靴、サイズの大きい靴でも指は曲がりやすくなります。ハンマートゥは足指が変形して拘縮し、踏ん張る力が低下しているので、歩くときや立ったときのバランスが悪くなります。

画像: サイズの合わない靴で指が曲がる

ハンマートゥの予防と対策

症状が軽いうちなら、「足指ストレッチ」などで改善します。しかし、重度に拘縮した指は、基本的には元に戻りません。痛みのあるタコやウオノメの処置をするとともに、足に当たらない靴を履いたり、インソールで調整したりします。進行させないように、立ち方や歩き方にも気をつけましょう。

画像1: ハンマートゥの予防と対策
画像2: ハンマートゥの予防と対策

[別記事:医師が教える足のセルフケア→

なお、本稿は『巻き爪、陥入爪、外反母趾の特効セルフケア』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。詳細は下記のリンクよりご覧ください。

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