解説者のプロフィール

森千恕(もり・せんじょ)
1954年、東京都生まれ。2000年から身体哲学者・勇﨑賀雄氏に師事し、骨と呼吸の勇﨑メソッドをマスター。現在は「からだの学校・湧氣塾」の校長として、骨たたきをはじめとした体の使い方、調整法を専門学校やカルチャーセンターでも指導している。ヨガインターナショナルライセンスをヨーロッパで取得。最新刊『100歳でもジャンプができる!1分ポコポコ骨たたき体操』(講談社刊)が好評発売中。
ちょっと走ったらすぐ転ぶ子どもだった
初めまして、森千恕と申します。今回、「骨たたき」という、骨をポコポコとたたいて健康になるという方法を、皆さんにお伝えさせていただきます。
骨たたきの詳しい効果については後述しますが、私は65歳の今、「からだの学校・湧氣塾」の校長として、さまざまな方に骨たたきを教えたり、体の使い方を指導したりしています。
そして、家に帰れば幼い孫たちの世話も引き受けています。一人を抱っこし、同時にもう一人をおんぶしても平気です。
このように、私が元気いっぱいに過ごしていることを古い友人に話すと「本当なの⁉」と驚かれてしまいます。
それもそのはずです。学生時代の私は虚弱で、周囲から心配されっ放しでした。
幼稚園でのお遊戯会の練習で、右の鎖骨を骨折したことが始まりでした。骨の構造を理解した今思えば、鎖骨を折って肩甲骨が変形すれば、体が大きくゆがんでしまいます。
小学校に入ってからは、ちょっと走っただけですぐに転んでしまい、いつもひざをケガしていました。鉄棒についても、きちんと棒が握れないので逆上がりができません。ですから、私自身も周囲の人も「運動神経の悪い子」だと思っていました。
加えて、中学の時に感染症が原因で腎盂炎、高校のときにじんましんで入院。すぐにカゼをひいたり、熱を出したりで、欠席と早退ばかりをくり返していました。高校生のときには、出席日数が足りず、留年になりかけたほどです。
大人になってからは、結婚をして、4人の子どもに恵まれました。とにかく子育てと家事が忙しくて、自分の体に気をかける暇などありません。しかし、気力と若さでなんとかなっていたのでしょう。

森先生とお孫さん。一人を抱っこし、もう一人をおんぶしても平気!
体の震えや息苦しさに襲われた
それが、年齢を重ねると、無理が利かなくなりました。4人目の子どもを生んでから5年後の、40歳の頃です。もともと10代の頃からあごがガクガクと音がして、引っかかるような感じは続いていたのですが、このときに本格的に口が開かなくなりました。顎関節症です。
病院に行っても治らず、困っていたときに、姉から呼吸法の教室を紹介されました。姉が通っているその教室では、顎関節症が治った人がいるとのこと。それで私も、その教室に通うことにしました。
実はその当時、私は一種のパニック障害のような症状にも悩まされるようになってしまいました。夕方になると奇妙な感覚に襲われて体が震えてきたり、電車に乗ると息苦しくなったりしていたのです。そんな私の様子を見て、家族もひどく心配していました。
顎関節症もそうですが、パニック障害にも悩んでいたときに、相談をしたのが勇﨑賀雄先生でした。勇﨑先生は、私が通っていた教室での指導者に当たります。
その勇﨑先生が独立して新たに道場を開くとお聞きしたので、私も勇﨑先生の元で自分の心と体の状態を治そうと考えました。
東洋と西洋の身体論を長年実践的に研究された勇﨑先生は、骨たたきをはじめ、数々の「勇﨑メソッド」を考案されました。今回ご紹介する骨たたきも、その一つになります。
骨たたきをすると体がほぐれ回復する
自分の体を治したい一心で勇﨑メソッドに取り組んだ結果、3~4年ほどたった頃には、パニック障害のような症状も顎関節症も消えていました。
もちろん、手品のようにパッと症状が消えたわけではありません。振り返れば、幼稚園児の頃から体のゆがみを抱えていたわけですから、治ったと思ったらちょっと元に戻るということのくり返しです。
今でもひどく忙しい時期を過ごした後には、体がガチガチにこわばることもあります。それでも、骨たたきを行うと、体が少しずつほぐれ、回復していくのが分かります。骨密度を測定したら、骨年齢20代という結果が出ました。昔を思うと信じられません。
小さな子どもから高齢者まで骨たたきがお勧めできる点は、家の中で座ったままでも簡単にできるうえ、体をポコポコたたくだけなので安全であるということ。
そして、他人の力を借りずに、自分の手で自分の体の調整ができるということです。
もっと多くの人に骨たたきのすばらしさを知ってもらいたいと、今では湧氣塾はもちろんのこと、カルチャーセンターや専門学校、高齢の方が利用するデイサービスなどにも出向いて、骨たたきを指導しています。
読者の皆さんも、ぜひ骨たたきのすばらしさを体感してください。
自分の足で歩くためには骨を強くすることが必須
「立ったり歩いたりするときに、重要な役割を果たしているのは筋肉である」と思って、筋トレに励んでいませんか。
そして、「筋肉は何歳からでも鍛えられるけれど、骨は老化する一方だ」と思い込んでいませんか。この二つは、どちらも間違いです。
私たち人間は二足歩行をするように進化してきたわけですが、骨格が本来の構造を保っていれば、立つ・歩くといった日常的な動作はスムーズにできます。
言い換えれば、痛みなどが生じて歩けなくなってしまう原因は、O脚や外反母趾をはじめとした骨格のゆがみにあるのです。骨の問題であるはずなのに、どうして筋トレが勧められてしまうのでしょうか。
骨格がゆがんだ状態で筋トレを行えば、バランスが偏ったままの骨格の上に、ガチガチに筋肉が発達していくことになります。すると、筋肉が邪魔をして肩が上がらなくなるなど、逆に体を動かしにくくなってしまうのです。
何歳になっても自分の足で歩きたいと思うならば、骨格のゆがみを改善すると同時に、骨を強くすることが必須です。
巻き爪や外反母趾も改善していく
そのために私が指導しているのが「骨たたき」です。
実は、骨は折れても100%再生します。年齢は関係ありません。高齢になってからでも修復されます。つまり、何歳からでも骨は育てられるのです。
骨たたきを高齢の方々に行ってもらったところ、骨密度が3ヵ月で約5%も高くなっていました。そして、80代や90代で、軽々とジャンプできるようになったという方も珍しくありません。
また、前項でお話ししたとおり、私自身は65歳ですが、骨年齢は20代前半で、孫と一緒に走り回れるほど元気です。
骨たたきとは、手を山の形にして、ポコポコと音が出るように関節などをたたくという方法です。ポコポコと音を出すのにはちょっとしたコツがあるものの、やり方はとても簡単で、どなたでも安全に取り組むことができます。
たたくことが骨を強くして骨格のゆがみを改善する理由は、「負荷」と「振動」にあります。
骨には、負荷がかかるほど骨を作る細胞が活発に働くという仕組みが備わっています。ですから、適度にたたくことで負荷を与えると、骨は丈夫になっていくのです。
振動についても同様に骨を強くする効果があるのですが、それだけではありません。
高齢の方によく見られるのですが、手足の筋肉が骨にくっついて(癒着)、硬くなり、見た目にも筋っぽくなっている場合があります。このような状態だと関節が動きにくいのですが、骨たたきで骨から筋肉に振動が伝わると、筋肉がゆるんで癒着が取れるのです。
そうすると、関節が大きく、スムーズに動くようになるため、骨格のゆがみが改善されます。実際に、O脚などの変形が骨たたきで治っている方はたくさんいます。
また、これも高齢の方に多い例として、外反母趾や内反小趾、屈み指(ハンマートゥ)も挙げられます。足の指を動かす筋肉が衰えてしまい、靭帯が伸びて、指が曲がったままで固まってしまうのです。
加えて、足の指を動かさないので血液循環が悪くなり、足の爪が成長しなくなったり、巻き爪になってしまったりしています。
こうした足は、見た目はもちろん、機能としても問題が発生します。痛い→動かない→さらに変形という悪循環をたどり、体を動かす機会がさらに減ってしまいます。寝たきりの高齢者の大半に、足の指や爪の変形が見られるのは、このためです。
骨たたきでは、足の指を動かす筋肉がついている関節(中足趾節関節)に振動を与え、血液循環を促すとともに、癒着を解消します。
ですから、骨たたきを続けたら足の指の面積が大きくなった、外反母趾や巻き爪、屈み指が改善してきたといった例が非常に多いのです(下の写真参照)。

骨たたきを始める前の足の指(写真左)と始めて半年後の足の指(写真右)。完全に丸まっていた爪が、少し平らになってきているのが分かる。
肥満を抑え老化や病気を撃退する
また、骨については、最近の研究で新しい役割が分かってきています。
骨の中で作られている「オステオカルシン」や「オステオポンチン」というホルモンに、次のような作用があるのです。
・肥満を抑える
・老化や病気の原因となる活性酸素を消去する
・記憶力・認知機能を向上させる
・生殖能力を向上させる
・病原体から体を守る免疫力を高める
いずれの作用も、まさに、若く元気に過ごすために欠かせない働きばかりといえるでしょう。こうした骨の働きについては、私も実感するような出来事がいくつもありました。
体力が急激に落ちて全身に力が入らなくなってしまい、複数の病院で検査しても原因が不明だった状態から、骨たたきを行ったことで、元どおりに働けるようになった会社役員の方もいます。
「人生100年時代」といわれるこれからを元気に若々しく過ごすため、ぜひ骨たたきを役立ててください。
ポコポコ「骨たたき」のやり方
「骨たたき」は、スムーズに行えるようになれば、1分もあればできます。1日に1回でも構いません。とにかく、毎日続けるようにしましょう。
効果を高めるには、朝に1回、午前中に1回、午後に1回、夕方に1回というように、1日に4回行うことをお勧めしています。回数に制限はありません。
ただし、食後30分間と寝る直前は避けてください。消化と睡眠を妨げる可能性があるからです。
また、痛みが現れるほどたたくと、逆効果になってしまいます。心地よさを実感できる範囲で行ってください。
骨をたたきさえすれば、さまざまな効果が得られるかというと、そうではありません。たたく場所とたたき方によって、効果の出方に大きな差が出ます。
まず、たたく場所ですが、「骨端」と呼ばれる骨の端です。
そして、たたくときの力が強過ぎたり、手のひらでバチバチとたたいたりすると、骨に振動が伝わりにくくなる上、体を痛めることにもつながります。
さまざまなたたき方を研究した結果、高い音を響かせながらポコポコという音が出るように行うと、骨全体に振動が伝わることが分かりました。
これについては論より証拠。読者の皆さんも手の指を広げたり、山の形にしたりして、両手をたたいてみて、振動の伝わり方の違いを比較してください。
今回紹介している全ての工程を行うのが理想ですが、ひざや腰が痛いときに、その部分だけをたたいてもいいでしょう。
骨たたきで筋肉がほぐれるので、すぐに体が軽く感じられたり、こりや痛みがらくになったりするはずです。長く続けると、歩く・立ち上がる・階段を上り下りするという日常的な動作がスムーズになり、体が変わったと実感できるでしょう。
準備体操1
手をたたく

いすに浅く座り、手を山の形にしてポコポコと音が出るように両手を10回たたく。

*これ以降全て、手はこの形でたたいていく。「ポコポコ」を意識すると、ちょうどいい力加減になる。
準備体操2
足を動かす練習

❶左足を行う
いすに浅く座った状態で行う。左足のかかとを少し上げてから、左手で左ひざをたたくと同時にかかとを下ろす。
*かかとの骨は思いのほか柔らかいので、強く下ろさない。

❷右足を行う
右足のかかとを少し上げてから、右手で右ひざをたたくと同時にかかとを下ろす。
①→②を交互に行い、10回くり返す。
骨たたき1
足をたたく(前足部で床をたたく)

*足指の先を気持ち丸めて行うとよい。

❶左足で床をたたく
いすに座って、左足の前足部分で床をトントンとリズミカルにたたく。10回くり返す。
❷右足で床をたたく
右足で、①と同様に床をトントンとリズミカルにたたく。10回くり返す。
❸左右交互に床をたたく
歩くときと同様に、両足で交互に床をたたく。10回くり返す。

❹両足同時に床をたたく
いすの座面をつかみ、両足を同時に持ち上げ、足先で床をたたく。10回くり返す。
*両足同時が難しいようなら、片足ずつ行っても構わない。
骨たたき2
ひざをたたく

❶ひざの内側をたたく
足を軽く開いて、両ひざを内側から両手で、ポコポコと音が出るように10回ほどたたく。

❷ひざの外側をたたく
両ひざを外側から両手で、ポコポコと音が出るように10回ほどたたく。
骨たたき3
腰をたたく

腰を両手で、ポコポコと音が出るように10回たたく。

腰骨の上部のやや内側。骨盤の上部にある腸骨棘(少しとがった部分)をたたくようにする。外側過ぎたり内側過ぎるのはNG。
高齢になると手が回りにくい場合も多いので、少しかがんで腰を突き出すようにするとたたきやすい(右の写真のように、立って行っても構わない)。
骨たたき4
肋骨をたたく

肋骨の下部を両手で、軽く、ポコポコと音が出るように10回ほどたたく。
*あごを突き出すように意識すると、胸郭が開いてよい。
*強くたたくと負担をかけるので、優しく行う。優しくたたいても痛みを感じる場合は、たたくのはやめて、さするとよい。

肋骨の下端に当たる部分を包み込むようにしてたたく。この部位は軟骨を含むので、他の部分より軟らかい。
[別記事:【巻き爪の原因】足のセルフケアをフットケア外来の名医が解説→]

この記事は『安心』2020年3月号に掲載されています。
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