解説者のプロフィール

杤久保修(とちくぼ・おさむ)
神奈川県予防医学協会循環器病予防医療部部長。横浜市立大学特任教授・名誉教授。医学博士。日本高血圧学会功労会員。日本循環器病予防学会名誉会員。1968年、横浜市立大学医学部卒業。専門は予防医学、循環器病学、高血圧、医療情報システムなど。30年以上にわたり寒天療法の研究を続け、メタボ対策に活用している。
生活習慣病やメタボの改善に大変優れた食品
「江戸時代以前で、日本が世界に誇れる発明は?」と聞かれたら、なんと答えるでしょうか。
私の答えは「寒天」です。寒天は、テングサなどの海藻の煮こごり(いわゆるトコロテン)を凍結乾燥し、不純物を除いた物です。
江戸時代初期に作られ始めた寒天は、後に科学や医学の発展に大いに寄与しました。培養液に寒天を加えることで、効率的に微生物や細胞の培養ができるようになったのです。
寒天には水分を保持する性質があり、液体を固体のように扱うことができるからです。寒天1gで、なんと100gもの水分を保持することができます。
これは、寒天に、特殊な構造の食物繊維が多く含まれるためです。食物繊維は網状の構造をしており、その網目に水分を保持します。寒天は、この網目がほかの食物繊維と比べて非常に細かいので、大量の水分を保持できるわけです。
そして、この寒天特有の性質は私たちの健康維持にもたいへん役立ちます。
大量の水分を保持した寒天が胃に入ると、胃壁が刺激されて、満腹感を得やすくなります。腸の中でも大幅な体積を占めるので、膨満感が生まれ、食べ過ぎを防ぎます。さらにカロリー(エネルギー)が極めて少ないため、ダイエット食品として優秀なのです。
そればかりか、生活習慣病の予防にも役立ちます。
胃を経て消化された食物繊維は、ドロッと溶けてゲル状になります。ゲル状の食物繊維は、腸内での糖の吸収スピードを遅くして、血糖値の急上昇を抑えます。
すると、膵臓からのインスリン(血糖値を調節するホルモン)の過剰分泌が抑えられ、膵臓の機能を守ることができます。それが結果的に、糖尿病の改善につながるのです。
コレステロール値を下げる作用もあります。肝臓では、コレステロールを分解し、腸内で脂肪の消化吸収を助ける胆汁酸を作っています。通常、一度使われた胆汁酸は再吸収されて再び体内で働きます。
ところが、寒天に含まれる食物繊維には、この胆汁酸を吸着し、便とともに体外へ排出する働きがあります。すると、肝臓で胆汁酸を新たに合成する必要が出てきて、その原料であるコレステロールがどんどん使われます。つまり、血液中のコレステロールが減少するわけです。
さらに、寒天を継続的に摂取すると内臓脂肪が減るので、高血圧や脂質異常症の予防にもつながります。
以前行った臨床試験においても、寒天を食べた場合のほうが、食べていない場合に比べて、血圧や血糖値、コレステロール値や、体脂肪率のすべてにおいて、数値の改善が認められました。
ですから、私はメタボ外来の患者さんに、寒天を毎日食べることをお勧めしています。しっかりと実践し、実際に改善した患者さんも多くいらっしゃいます。
煮溶かして食べると食物繊維の効果がアップ
寒天は無味無臭なので、どんな食材とも好相性です。寒天をみそ汁に入れる「寒天みそ汁」は、組み合わせとして、とてもよいとり方です。
みそにも寒天同様、すばらしい健康効果があります。
みその原料となる大豆のたんぱく質には、人間にとって必要な20種類のアミノ酸がすべて含まれており、その量もバランスも優れています。
アミノ酸をバランスよく豊富に含むのは、肉や卵、乳製品などの動物性たんぱく質ですが、これらに次いで優秀なのが大豆です。植物性たんぱく質では随一といってもいいでしょう。
寒天みそ汁は、寒天とみその相乗効果で、生活習慣病の予防に大いに有効と期待できます。
ただ、寒天の効果を最大限に発揮するには、調理法にコツがあります。「煮溶かしたほうがいい」ということです。温めて溶かすことで、前述した食物繊維による健康効果が高まります。
そのため、出来上がったみそ汁に糸寒天を振りかけて食べるより、あらかじめ入れ、軽く煮込んで溶かすのがお勧めです。
1日に寒天を2g程度とることを継続すれば、効果が実感できると思います。また、具材に野菜や海藻、豆腐などを加えると、ビタミンやミネラルも摂取できて、なおよいでしょう。
杤久保先生お勧めの
寒天みそ汁の作り方
【材料】 (2人分)
・粉寒天…小さじ1
・みそ…大さじ1/2
・だし汁…300ml
そのほか、豆腐や海藻などお好みの具材を入れる。

【材料】
❶鍋に具材とだし汁を入れ、火にかける。棒寒天は水に浸けておく。
❷煮立ったら寒天をちぎって入れ、中火で1分ほど煮る。
❸火を止めて、みそを溶き入れ、器に盛る。
[別記事:鎌田實医師が提案 長野県を長寿日本一に導いた寒天みそ汁の作り方→]

この記事は『壮快』2020年3月号に掲載されています。
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