解説者のプロフィール

小林弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートや文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。『医者が考案した「長生きみそ汁」』(アスコム)など著書多数。
注目のヘルシー食材を効率的に摂取できる
ここ数年、みそ汁が脚光を浴びています。
みそは、大豆から作られた日本古来の発酵調味料。大豆が高たんぱく・低カロリー(エネルギー)であることや、イソフラボンが女性ホルモン様の働きをするということで、ヘルシー食材として注目されています。
発酵食品ブームや、和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、世界規模で人気を博している影響もあるかもしれません。
豊富な栄養素を持つ大豆が、みそになる過程で、アミノ酸やビタミンを生成・増加します。こうしたみそを、効果的に摂取できるのが、みそ汁です。
私自身も、みそ汁の常食で健康を維持し、みそ汁を推奨する書籍も上梓しました(『医者が考案した「長生きみそ汁」』)。読者の皆さんから、「心身の疲れが取れた」「長年の便秘が解消した」「イライラしなくなった」「血圧が下がった」といった声が寄せられています。
そもそも、私がみそ汁に着目した理由は、「自律神経の乱れを整え、腸内環境を改善する最高の食品」と考えたからです。
自律神経とは、意志とは無関係に、血管や内臓、ホルモン分泌などを調整する神経です。自律神経は、心身を活動的にする交感神経と、リラックスさせる副交感神経が、バランスを取りながら働いています。
一般に、活動する日中は交感神経が優位に働き、休息する夕方から朝にかけては副交感神経が優位になります。ところが、長時間労働や睡眠不足、ストレスなどが続くと、自律神経のバランスがくずれ、さまざまな不調が現れます。
現代の日本では、副交感神経が優位になるはずの深夜や休日に仕事をしたり、ストレスでイライラしたりする人が増えています。常に交感神経優位の生活では、心も体も休まりません。
この状態が長時間続くと、本来休むべきときに、副交感神経への切り替えができなくなります。
その結果、不眠症や便秘、耳鳴り、めまいなどが起こったり、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、脳梗塞やガンなどのリスクが高まったりするのです。
食事の最初に食べると糖尿病対策に役立つ
こうした自律神経の乱れを整えてくれるのが、みそ汁です。 みそ汁を飲むと、体内でどんなことが起こるのでしょうか。
まず、温かい飲み物は胃腸の血流を促します。消化器が活性化すると、副交感神経が優位になり、心身がくつろぐのです。
腸内細菌も、みそ汁に反応します。
みそに含まれる麹菌は、加熱すると死にますが、腸内細菌にとっては死んだ菌も十分刺激になります。善玉菌が活性化し、腸内環境が改善するのです。
腸内環境が整うと、便秘や下痢、胃もたれなどが改善します。さらに、免疫機能が正常化し、花粉症やアトピー性皮膚炎、関節リウマチといった、自己免疫疾患の予防・改善も期待できるでしょう。
腸内細菌は、母親の食生活に由来しています。産道で母親の腸内細菌をもらって生まれ、それらの菌が母乳やミルクで培養されて、腸内細菌の種類がほぼ決定するのをご存じですか。
日本で生まれ育った人にとって、みそ汁はなじみのある食品です。「第二の脳」といわれる腸が「懐かしい。ホッとする」と感じるのは、不思議なことではありません。
「懐かしい」という感情を抱くと、オキシトシンというホルモンが分泌されます。オキシトシンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、ストレスの緩和や不安・恐怖の減少、意欲向上といった作用があります。
みそ汁を飲むと心が安らぐのは、そうした理由もあるでしょう。

みそ汁が自律神経と腸内環境を整える
「食欲がないので朝食抜き」「朝はパンとコーヒーだけ」という人が増えています。しかし、最近の研究では、「起床後1時間半以内に朝食をとることで、体内時計がリセットされ、日中の活動レベルが向上する」と判明しています。まずは、みそ汁を食べるところから始めてみてください。
食事の最初にみそ汁を食べる「みそ汁ファースト」もお勧めです。満腹感が得られ、血糖値の急上昇を防ぐので、ダイエットや糖尿病対策に役立ちます。私自身、野菜たっぷりのみそ汁ファーストを実践し、3kgやせました。体が軽くなり、体調も良好です。
みそ汁は、1日1杯食べれば十分です。納豆や寒天、ショウガなどを加え、健康効果をさらに高めている人もいるようです。皆さんも、ぜひ「みそ汁生活」を始めてください。

この記事は『壮快』2020年3月号に掲載されています。
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