解説者のプロフィール

福里真希(ふくさと・まき)
鍼灸室らくみ院長。1975年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業。会社員時代に東洋医学に出会い、鍼灸師の国家資格取得。北京での研修勤務や出産を経て、刺激の強い鍼から、「やさしい・刺さない小児はり」専門へ転向。小児はり学会会員。都内幼稚園や保育園での講演活動を行う。NHKカルチャーセンター「お灸教室」では自身でできるセルフケア講座が好評を得ている。
▼鍼灸室らくみ(公式サイト)
患者や生徒に教えて効果が高いと好評
私の患者さんは、主に小さなお子さんとそのお母さんです。私自身、2児の母ですが、親になると我が子にまつわる心配が次々に出てきます。夜泣きやセキ込み、食べてくれない、ウンチが出ないなど、ちょっとしたことでも気になるものです。
子育ての悩みを少しでも楽にする手段として、鍼灸という選択肢があることを、多くのお母さんたちに知ってほしい。そんな気持ちで鍼灸室を立ち上げ、治療に当たっています。
相談を受ける症状のなかでも多く見られるのが、鼻づまりや後鼻漏(鼻汁がのどへと垂れる状態)です。
大人でも同じですが、鼻が詰まったり、鼻汁がのどにたまったりすると、とても不快なものです。夜は寝つきが悪くなり、ぐっすり眠れません。看病するお母さんも眠りが浅くなり、親子で共倒れしてしまいます。
こうした鼻の症状に試してもらい、高い効果を上げているセルフケア法があります。それが「スプーン灸」です。
一般的なお灸は火を使ううえ熱刺激が強いため、お母さんが小さい子に、自宅で施すケアとしては、危なくてお勧めできません。
けれども、スプーン灸なら、手順を踏まえれば、誰でも安全に行うことができ、十分な効果を得られます(やり方は下記参照)。もちろん、大人が実践しても、効きめがあります。
数年前にこの方法を考案してからは、来院される患者さんやカルチャーセンターで受け持つ講座の生徒さんにお教えして、好評をいただいています。
朝に行うと一日をスッキリ始められる
鼻づまりや後鼻漏といった症状は、副鼻腔炎に移行することが多いものです。
副鼻腔とは鼻の周囲にある四つの空洞を指します。ここに炎症が起こっている状態が、副鼻腔炎です。

私は、鼻と、顔の表面に近い副鼻腔を合わせて、便宜上「木のゾーン」と呼んでいます。ちょうど、漢字の「木」の字に似ているからです。
副鼻腔に炎症を起こしていない人の場合、「木のゾーン」を指先でトントン叩くと、すぐ下に骨の存在が感じられ、コツコツとかたい音がします。
一方、鼻づまりや後鼻漏、副鼻腔炎の患者さんは膿がたまったりむくんだりしているため、ブニョブニョした感触です。
そこで、この「木のゾーン」を、スプーン灸で刺激します。
金属製のスプーンを熱湯に浸し、裏側の丸い面を顔に当てていきます。スプーンが想像以上に熱くなるので、お湯につけたら必ず、少し振って風を当ててから、まずは手のひらにつけ、熱さを確認してください。
熱いと感じたら、すぐにスプーンを離します。手のひらでもアチチと感じるようなら、まだ冷ます必要があるということ。顔は、体のほかより皮膚が薄いので、よく注意しましょう。
ほどよい熱さになったら、「木のゾーン」にスプーンを、なでさするように当てます。冷めたらまたお湯につけ、顔に当てる、をくり返します。気持ちよく感じる場所があれば、じっくりと温めてください。
初めは熱く感じなかった部位も、熱さを鋭敏に感じるようになります。それが、温熱刺激が伝わったサイン。長くても全体で3分ほど行えば、十分です。
■スプーン灸のやり方
【材料と用意する物】
・ステンレスなど金属製のスプーン(大きさは好みでOK)
・耐熱性の器に入れた熱湯

【やり方】
❶スプーンを熱湯に数秒浸し、取り出したら、手のひらで熱さを確認する。熱過ぎたら冷ます。
❷ほどよい熱さになったら、下図の「木のゾーン」に、スプーンを軽く押し当て、なでさする。全体で3分程度行う。
★ヤケドをしないよう注意して行う。
★毎日、朝は必ず、できれば昼と夜も行うとよい。


また、「木のゾーン」には、副鼻腔炎の症状に効くツボが集まっています。
眉間の中央にある「印堂(いんどう)」、小鼻の両わきの「迎香(げいこう)」。そして両小鼻の上の、鼻の軟骨がかたい骨に変わるところに、「鼻通点(びつうてん)」という、文字どおり鼻の通りをよくする特効ツボがあるのです。
スプーン灸は、温熱刺激と、軽い押圧刺激で、副鼻腔周辺の血流やリンパ液、細胞間液の流れを促します。循環がよくなればそれとともに、たまっていた炎症物質や発痛物質が流れ去り、症状が改善します。
夜間は、体の排出機能が停滞している時間帯です。ですから朝の起床時にスプーン灸を行うと、スッキリして一日を始めることができます。簡単でお金もかからず、効果の高いスプーン灸をぜひお試しください。

この記事は『壮快』2020年2月号に掲載されています。
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