解説者のプロフィール

杣源一郎(そま・げんいちろう)
薬学博士、免疫学者。1977年、東京大学卒業。帝京大学助教授、帝京大学教授、徳島文理大学教授、同大学大学院教授を経て、現在は新潟薬科大学教授。産官学連携の研究開発を目的とした自然免疫賦活技術研究会会長、特定非営利活動法人「環瀬戸内自然免疫ネットワーク(LSIN)」理事、自然免疫制御技術研究組合代表理事を務めている。
〝免疫ビタミン〟がアレルギーに威力を発揮
副鼻腔炎をはじめとした、鼻やのどの症状の多くは、体の免疫機能と深い関係があります。
鼻やのどというのは、外界から異物が真っ先に入ってくる部位です。細菌やウイルスなどをここで食い止め、病気から体を守るため、免疫細胞が集まっています。
免疫細胞の活性が低下していると、こうした異物を排除することができず、細菌やウイルスに感染してしまいます。
一方、鼻やのどは、花粉やホコリ、ダニなど、アレルゲンの侵入経路でもあり、アレルギー性の炎症を起こしやすい部位でもあります。
アレルギーとは、特定の物質に対して、免疫機能が過剰に反応している状態を指します。その結果、鼻炎などの炎症が起こってしまうのです。
いずれにせよ、鼻とのどの不快な症状を治すには、体の免疫機能を活性化し、正常に働かせる必要があります。
そこで注目なのが、免疫を活性するビタミンのような物質である「リボポリサッカライド」、略して「LPS」です。
アレルギー疾患の予防や改善に、強い威力を発揮する〝免疫ビタミン〟です。
LPSやLPSを豊富に含む食材については、北西剛先生が別記事で触れていますが、英語の頭文字だけだとどんな物質かわかりにくいので、少し説明しましょう。
[別記事:鼻に良い食材→]
細菌を分類するにあたり、グラムという人が確立した染色方法があります。染色のされ方で細菌を二つに大別するもので、ある試薬に染まらないと「グラム陰性菌」と呼ばれます。
この「グラム陰性菌」の、細胞外壁に存在している成分、それがLPSです。
LPSは、糖と脂質が結合した分子構造をしているので、日本語では「糖脂質」と呼ばれます。糖と脂質という語感から、あたかも健康に悪いような印象を受けますが、とんでもない。
LPSは、体内の免疫システムの要である細胞群「マクロファージ」を活性化させることで、免疫力を高め、さまざまな病気から体を守り健康に導く、すばらしい物質なのです。
免疫ビタミンを味方につければ鬼に金棒!
マクロファージは、血液や皮膚、骨、筋肉や脳、各臓器など、体内のあらゆるところに存在する細胞です。アメーバ状の形状で自在に動き回り、病原体などの異物を取り込んで処理します。むしゃむしゃと食べるように取り込むことから「貪食細胞」とも呼ばれます。
LPSの働きのうち、もっともよく知られているのが、このマクロファージの活性化です。
「乳酸菌やキノコは免疫力アップにいい」というのは、皆さんなんとなくご存じでしょう。これは「乳酸菌が善玉菌だから」「キノコは食物繊維が豊富だから」といった理由以外に、分子レベルの根拠があります。
マクロファージは、少量の異物により刺激を受けることで、活性化します。異物排除能力が高まり、いわば臨戦態勢に入るわけです。
この刺激を受けるため、マクロファージの細胞膜表面には、受容体と呼ばれる、鍵穴のようなものが存在します。受容体はいくつもありますが、この鍵穴それぞれにピッタリ合う物質がはまることでマクロファージはグンと活性化します。
鍵穴のうちの2番に当たる、TLR2という受容体に結合する物質が、乳酸菌に含まれる「ペプチドグルカン」、そしてキノコなどに含まれる「βグルカン」です。乳酸菌やキノコが免疫力アップにつながるのは、こうしたわけなのです。
さて、そこで、LPSです。マクロファージがLPSのために用意した鍵穴は4番、つまりTLR4という受容体です。
そして興味深いことに、マクロファージはほんのわずかなLPSもキャッチします。
なんと、乳酸菌のペプチドグルカンや、キノコのβグルカンに比べて、1000分の1という少量でもマクロファージを活性化。つまりそれらに比して〝1000倍〟もの免疫活性パワーを持つことが実験の結果判明しているのです。
LPSが、別名〝免疫ビタミン〟と呼ばれるゆえんです。
■免疫ビタミンLPS食材は乳酸菌といっしょにとると効果相乗!
LPSは、それだけを摂取した場合でも、免疫力の向上に働きます。しかし、私たちの行った研究により、LPSを乳酸菌と同時に作用させた場合、この免疫アップパワーが飛躍的に伸びることがわかりました。
これは、2番と4番という異なる鍵穴から、同時に刺激が入ることで、マクロファージの活性化を効率よく進めるメカニズムが機能するのではないかと考えられています。
LPSを多く含む食材(別記事参照)といっしょに、ヨーグルトやキムチに代表されるような乳酸発酵食品を食べれば、鬼に金棒です。
[別記事:鼻に良い食材→]
免疫細胞を強くすることは、副鼻腔炎など、のどと鼻の症状の軽快に大いに役立ちます。ぜひ、食事作りの参考になさってください。

この記事は『壮快』2020年2月号に掲載されています。
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