解説者のプロフィール

光武和彦(みつたけ・かずひこ)
ホロス光武クリニック院長。久留米大学医学部卒業、同大学院博士課程修了。筑後市立病院産婦人科医長などを経て、1990年、光武産婦人科を開院。1997年、食事療法を中心とした肥満治療外来を開始し、診療を本格化。2013年、ホロス光武クリニックに改称し、現在に至る。YNSA(山元式新頭鍼療法)学会認定医。YNSAにプラセンタ注射を応用した治療法で成果を上げている。医学博士。日本産婦人科学会専門医。
全身の各部位に対応する治療点が頭部にある!
肥満治療を中心に行う私のクリニックは、以前は産婦人科がメインでした。そのせいか、現在も患者さんの9割以上が女性です。冷え、のぼせ、首・肩のコリ、頭痛、腰痛、耳鳴りなど、いわゆる「不定愁訴」といわれる症状でお困りの人も、多く受診されています。
このような体の不調や痛みなどの症状に対し、私が実践し、効果を上げているのが、頭部への鍼治療です。頭部には、全身の各部位に対応するポイント(治療点)があるのです。
私が治療に取り入れているのは、宮崎県在住の医師、山元敏勝先生によって、1973年に確立された「山元式新頭鍼療法(YNSA)」です。
山元先生は、中国伝来の鍼灸とは全く異なる発想で、全身の各部位に対応する治療点を、頭部に見いだしました。そして、対応する治療点に鍼を打つだけで、難治とされる病気が劇的に改善する症例を、数多く積み上げてきました。
例えば、脳梗塞の後遺症によるマヒ、頑固な腰痛・座骨神経痛、耳鳴り、めまい、うつ病、関節リウマチ、パーキンソン病などです。
YNSAは、治療効果が非常に高いことから、世界中の医療機関で評価されています。
山元式新頭鍼療法(YNSA)とは
YNSAは、Yamamoto New Scalp Acupunctureの略。宮崎県の山元敏勝医師(山元病院理事長)が1973年に開発した頭部の鍼灸治療法。中国伝来の鍼灸療法に比べて簡便でわかりやすく、治療効果も高い。ドイツ、アメリカをはじめ、世界中で数万人の医師が治療に取り入れている。
ドイツでは、整形外科をはじめとして麻酔科、内科などの医師が実践。ブラジルではYNSAの普及で医療費が軽減し、YNSA専門の病院も建設されている。イタリアやオーストラリアには、YNSAがカリキュラムに組み込まれた医大もある。日本では、2013年にYNSA学会が設立され、研究が進められている。
私は26年前、1本のビデオでYNSAのことを知り、衝撃を受けました。以来、山元先生の著書を読んで独学でYNSAを学び、痛みなどで困っている患者さんの治療に取り入れてきました。
2012年、山元先生のセミナーに参加し、その治療技術は格段に向上。山元先生の手技を見学し、直接指導を受けることができたからです。
なお、私は頭部の治療点刺激に、鍼よりもプラセンタ注射を用いることで、治療に成果を上げています。また、臨床を通じて、新たな治療点の解明にも力を入れています。
例えば、下項で紹介したひざ痛の治療点は、私が独自に発見し、2019年10月のYNSA学会全国大会で発表したものです。
ではここで、頭部の治療点刺激で症状が改善した症例を、2例紹介しましょう。
●腰痛・ひざ痛(Aさん・65歳・女性)
Aさんは腰痛がひどく、前屈が全くできない状態でした。半年前からひざ痛も発症し、整形外科でたびたび水を抜いたり、ヒアルロン酸注射を打ったりする治療を受けていたそうです。来院時は、正座もできませんでした。
そこで、対応する頭部の治療点を刺激する治療を行ったところ、腰やひざの痛みが消失。深く前屈できるようになっただけでなく、その場で正座ができました。Aさんは、週1回の治療を4回続けたところで、腰痛もひざ痛も完治しています。
●耳鳴り(Bさん・57歳・女性)
長年、耳鳴りに悩まされてきたBさんは、数年前から更年期障害も加わり、不調を訴えて来院しました。病院を転々とし、ホルモン補充療法や漢方薬、プラセンタ注射などの治療を受けても、症状は改善しなかったそうです。
更年期障害の状態を簡易に把握できるSMI指数という診断法がありますが、その指数は52点と、中等度を示していました(正常値は25点以下)。
そこで、自律神経に対応する治療点と、耳鳴りに対応する治療点を中心に頭部を刺激したところ、治療直後のSMI指数は7点に激減。耳鳴りも消失しました。5日後に再び耳鳴りがしたそうですが、以前ほどひどくはなく、3回めの治療以降、再び耳鳴りはしなくなりました。SMI指数は30点前後で落ち着いています。
このように、短期間で非常に高い効果が得られる頭部の治療点刺激ですが、鍼治療やプラセンタ注射は専門家でないと行えません。そこで、今回は皆さんが自分で行える「髪の生え際押し」を紹介します。
頭部の髪の生え際付近の治療点を、指先で刺激するこの方法は、当院でも補助療法として患者さんに勧め、治療効果を高めることに役立っています。つらい症状を和らげるセルフケアとしても、きっと効果を感じていただけることでしょう。
自律神経が整うだけで症状が改善されることも
まず、体の不調を改善するために最も重要なのは、自律神経の調整です。
自律神経とは、自分の意志で動かすことのできない内臓や血管などの働きをコントロールしている神経。例えば、心臓を動かしたり、胃液を分泌したり、体温調節、発汗、血管の拡張・収縮なども、自律神経によって行われています。
ですから、自律神経のバランスが乱れると、体にさまざまな不調が起こります。
例えば、血管が収縮した状態が続き、血流が悪くなると、冷え、頭痛、肩こり、腰痛、また高血圧の要因にもなるでしょう。逆に、血管が拡張した状態が続けば、のぼせ、異常な発汗などが起こります。血液、リンパ液の流れに乱れがあると、耳鳴り、めまいなどを招く可能性もあります。
さらに、胃腸の働きが停滞すると、胃もたれや便秘を招き、逆に働きが過剰になると、嘔吐や胃痛、下痢を引き起こします。便秘と下痢をくり返すのも、自律神経の失調が原因です。
冒頭で挙げた不定愁訴と呼ばれるものは、ほとんどに自律神経が関係しているといっても、いい過ぎではないのです。
そこで、髪の生え際押しを行う際は、どんな症状であっても、まず自律神経のバランスを整えることが基本となります。

自律神経の治療点を指先で刺激する光武先生
自律神経を整える
「基本の髪の生え際押し」のやり方
【改善が期待できる症状】
冷え、のぼせ、頭痛、首・肩のコリ、腰痛、ひざ痛、高血圧、耳鳴り、めまい、胃痛、胃もたれ、便秘、下痢など。
自律神経の中枢は、脳幹の中の視床下部(ししょうかぶ)にあります。

脳の視床下部
自律神経系の統合中枢として働く。代謝機能、体温調節機能、心臓血管機能、内分泌機能、性機能などを調節。
❶視床下部に対応する頭部の治療点は、顔の左右中央の正中線上の、髪の生え際から約2cm上にあります。
鏡で確認しながら、指で押して圧痛・違和感のあるところを探してください。ほとんどの人に圧痛を感じる場所があります。

❷その治療点に指先を押し当てた状態で、円を描くように20回、力を加えて刺激します。(回す方向は左右どちらでもよい)
使う指は、自分が力を入れやすい指でかまいません。指先の皮膚と爪で治療点を刺激します。皮膚を傷つけないよう、爪は短く切っておきましょう。押すときの力加減は、多少痛くても我慢できる範囲内で、強く刺激したほうが効果的です。

❸髪の生え際押しは、1日に何度行ってもかまいません。回数は多いほど、効果があります。気がついたときに、そのつど、行ってください。
自律神経のバランスを整えたら、次は症状に応じて、対応する治療点をそれぞれ同じように刺激します。症状別の指圧の治療点とやり方は、下項を参照してください。
家を建てるときはまず整地するように、体もまず自律神経を整えてからでないと、よい状態にはできません。必ず上記の基本を行ってから、症状別のやり方を行ってください。
なお、自律神経が整うと、それだけで症状が改善されることもあります。その場合は、基本のやり方だけでもOKです。
「症状別の髪の生え際押し」のやり方
症状別 その1
首・肩のコリ、頭痛
【治療点】
首こり…❶髪の生え際の少し下で、正中線の左右1cm外側
肩こり…❷髪の生え際の少し下で、正中線の左右2cm外側
頭 痛…❶と❷

【やり方】
治療点に指先を押し当て、そこを支点に20回、円を描くように押し回す。
※左の首または肩がこっている場合は正中線の左の治療点、右がこっている場合は正中線の右の治療点、両方こっている場合は左右両方の治療点を刺激する。


※頭痛の8~9割は筋肉の緊張による「緊張性頭痛」といわれている。髪の生え際押しで症状が改善しないときは、別の原因の可能性も考えられるので医療機関を受診すること。
症状別 その2
五十肩、ひじ痛、腱鞘炎、手指の痛み
【治療点】
髪の生え際の左右の上端から、斜め後方へ3cmの範囲

【やり方】
治療点の範囲に指先を押し当て、痛みや違和感のある部位を探す。そこを支点に20回、円を描くように押し回す。
※痛みがある側の治療点を刺激する。

症状別 その3
腰痛、股関節痛、足首痛、足底のしびれ、足指の痛み、生理痛
【治療点】
髪の生え際の左右の上端からまっすぐ下りてきた耳の前辺り

【やり方】
治療点に指先を押し当て、そこを支点に20回、円を描くように押し回す。
※痛みがある側の治療点を刺激する。

症状別 その4
ひざ痛
【治療点】
眉の左右中央から約1cm上

【やり方】
治療点に指先を押し当て、そこを支点に20回、円を描くように押し回す。
※痛みがある側の治療点を刺激する。

症状別 その5
耳鳴り
【治療点】
❶眉尻から約1㎝内側の縦のライン上で、額の天地中央より少し上
❷正中線の、髪の生え際の上辺り(基本の生え際押しの治療点を中心としたその周辺)

【やり方】
治療点に指先を押し当て、そこを支点に20回、円を描くように押し回す。
※①は耳鳴りがある側の治療点を刺激する。左右両方にあれば、両側を刺激する。


症状別 その6
老眼、眼精疲労
【治療点】
眉頭の縦のライン上で、髪の生え際から眉までを4等分したときにできる3点のいちばん上側

【やり方】
治療点に指先を押し当て、そこを支点に20回、円を描くように押し回す。
※左右両側の治療点を刺激する。

症状別 その7
鼻水、鼻づまり、副鼻腔炎
【治療点】
眉頭の縦のライン上で、髪の生え際から眉までを2等分した中間点

【やり方】
治療点に指先を押し当て、そこを支点に20回、円を描くように押し回す。
※左右両側の治療点を刺激する。

症状別 その8
顎関節症
【治療点】
眉頭の縦のライン上で、髪の生え際から眉までを4等分したときにできる3点のいちばん下側

【やり方】
治療点に指先を押し当て、そこを支点に20回、円を描くように押し回す。
※左右両側の治療点を刺激する。

症状別 その9
過換気症候群、しゃっくり
【治療点】
眉の上1cmのところを、眉頭から眉尻にかけて押していき、圧痛のあるところ

【やり方】
治療点に指先を押し当て、そこを支点に20回、円を描くように押し回す。
※左右両側の治療点を刺激する。


この記事は『壮快』2020年2月号に掲載されています。
www.makino-g.jp