鼻粘膜の表面には線毛が生えています。線毛細胞からは殺菌作用のある一酸化窒素(NO)が出ています。一方、口には線毛がないため、口呼吸ではNOの殺菌作用がほとんど働きません。そのため、口から入った細菌が副鼻腔に侵入し、炎症を起こすことがあるのです。【解説】今井一彰(みらいクリニック院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

今井一彰(いまい・かずあき)
みらいクリニック院長。1995年、山口大学医学部卒業。2006年に福岡市博多駅前にみらいクリニックを開業後、さまざまな方法を駆使しながら、薬を使わずに体を治す独自の治療を行う。日本病巣疾患研究会副会長。「あいうべ」による息育や「足指を伸ばす」ことによる足育の普及にも尽力する。著書に『自律神経を整えて病気を治す! 口の体操「あいうべ」』、『マンガ 医師が教える足指伸ばし』(いずれもマキノ出版)など多数。

カゼをひきやすくなり副鼻腔炎を招く口呼吸

頭蓋骨には、鼻の穴の内側の空洞(鼻腔)に隣接した副鼻腔と呼ばれる四つの空洞があります。そのいずれかに炎症が起こり、障害を起こすのが「副鼻腔炎」です。

症状としては、膿がたまって粘り気のある鼻水が出たり、鼻が詰まったり、頭痛がしたり、においがわからなくなったりすることなどです。

炎症が起こる原因は、カゼやインフルエンザのウイルス、細菌、カビなどの感染といわれています。

画像: カゼをひきやすくなり副鼻腔炎を招く口呼吸

耳鼻咽喉科で副鼻腔炎と診断されると、一般的には抗生物質による治療が行われます。しかし、投薬治療でいったんよくなっても、薬をやめるとまた再発する人も少なくありません。

それは、副鼻腔炎になる要因として、口呼吸が関係しているからだと、私は考えています。

私たち哺乳類は、本来、鼻で呼吸をするのが正しい呼吸法です。鼻から吸い込んだ空気は、鼻の中を通ることで、肺へ温かく湿った状態で送られます。

ところが、口で呼吸をすると、冷たく乾燥した空気がいきなり体内に入ってきます。すると、体が冷えて、カゼをひきやすくなり、副鼻腔炎を起こすリスクが高まるのです。

そしてもう一つ、鼻粘膜の表面には線毛が生えています。線毛細胞からは、殺菌作用のある一酸化窒素NO)が出ています。

一方、口には線毛がないため、口呼吸ではNOの殺菌作用がほとんど働きません。そのため、口から入った細菌が副鼻腔に侵入し、炎症を起こすことがあるのです。

口呼吸と鼻呼吸では、NOの出る量が数十倍違うともいわれています。また、ハミングをすると鼻粘膜の線毛細胞が刺激され、NOの分泌が促され、副鼻腔炎の予防になるという研究報告もあります。

いつも口が開いている、口を閉じるとあごに梅干し状のシワができる、食べるときにクチャクチャと音をたてる、唇がよく乾く、口臭が強いなど、思い当たることはありませんか?このような人は、口呼吸をしている可能性が高いといえます。

副鼻腔炎に限らず、多くの不調に口呼吸が影響していると気づいた私は、診療で常々、患者さんに口呼吸を鼻呼吸に変えるよう指導しています。

その方法の一つが、私が考案した口の体操「あいうべ」です。これは「あ、い、う、べー」と口を大きく動かすことで、舌や口周りの筋肉が鍛えられ、口をしっかり閉じたまま呼吸ができるようになる体操です。

やり方は、下の図をご覧ください。大げさなぐらい口を大きく動かして、ゆっくり行うのがポイントです。1日合計30回を目安に行います。朝昼晩に10回ずつと、分けて行ってもかまいません。

■あいうべ体操のやり方

大げさなくらい口を大きく動かす。
①~④を4秒くらいかけてゆっくり行う。
①~④を1回として、1日30回を目安に毎日続ける。

画像1: ■あいうべ体操のやり方

「あー」と、口を大きく開く。

画像2: ■あいうべ体操のやり方

「いー」と、口を大きく横に広げる。

画像3: ■あいうべ体操のやり方

「うー」と、口を前に突き出す。

画像4: ■あいうべ体操のやり方

「べー」と、舌を突き出して下に伸ばす。

睡眠時の口呼吸は「口テープ」で防ごう

ふだんは鼻呼吸を意識しているという人も、睡眠時は口呼吸になっていることが多いものです。朝起きたとき口の中が乾燥している、のどがヒリヒリする、イビキや歯ぎしりがあるという人は要注意です。

睡眠時の口呼吸を防ぐために「あいうべ」とともに「口テープ」も行うとよいでしょう。

口テープのやり方は、薬局などで売られている医療用のテープ(サージカルテープ絆創膏など)を、5cmほどの長さに切り、唇の中央に縦に貼って寝るだけです。テープは、幅が12mm前後の物が適当でしょう。

■口テープのやり方

画像1: ■口テープのやり方

【用意するもの】
幅12mm前後の医療用テープ(サージカルテープや絆創膏など)
*薬局で購入できる

画像2: ■口テープのやり方

テープを5cmほどに切る。

画像3: ■口テープのやり方

唇の中央に縦に貼り、そのまま寝る。強く貼る必要はない。朝、起きたらテープをはがす。

鼻が詰まっていて呼吸しづらい人は、苦しくなったらすぐ口を開けられるように、テープを短めにしておくと安心です。


寝る前に、鼻うがいをしたり、市販の点鼻薬を使ったりして鼻の通りをよくしておくのもよいでしょう。鼻うがいは、精製水に食塩を1%加えて作った生理食塩水を、スポイトで5mlほど鼻の中に垂らし、鼻を洗う方法です。

また、目の下にある「四白(しはく)」という鼻づまりの特効ツボを刺激してから、口テープを貼るのもお勧めです(下図参照)。

四白は、まっすぐ正面を見たときの瞳の真下、眼球が収まっている骨のくぼみの下縁から指幅1本分下です。左右の人差し指の腹で、10秒ほど押すのを2〜3回くり返してください。鼻がスーッと通ってくるはずです。

■鼻づまりに効くツボ・四白
口テープを貼る前に、ツボ刺激を行う。

画像4: ■口テープのやり方

【四白の位置】
まっすぐ正面を見たときの瞳の真下、眼球が収まっている骨のくぼみの下縁から指幅1本分下。

画像5: ■口テープのやり方

【やり方】
左右の人差し指の腹で10秒押すのを2〜3回くり返す。

では、「あいうべ」と口テープを行って副鼻腔炎がよくなった症例を2例紹介しましょう。

●Aさん(68歳・男性)
3年前に副鼻腔炎と診断されたAさんは、鼻づまりによる睡眠障害、仕事を中断せざるをえないほどのめまいや吐き気まで起こしていました。

耳鼻咽喉科で抗生物質を処方され飲んでいましたが、なかなかすっきりとは改善せず、再発をくり返していたといいます。

そこで、当院で「あいうべ」と口テープを勧めたところ、2ヵ月後には仕事に支障がないくらいまで、めまいと吐き気が改善。5ヵ月後には鼻づまりもほぼ解消し、眠れるようになりました。

●Bさん(39歳・男性)
Bさんの症状は、のどの奥に鼻汁が垂れる後鼻漏、鼻水のネバつき、なかなかタンが出なくて気分が悪いというものでした。

半年前に耳鼻咽喉科で副鼻腔炎と診断され、抗生物質を飲んでもよくならないことから、当院を受診されました。

イビキもあるとのことで、口呼吸を鼻呼吸に変える「あいうべ」と口テープを行ってもらったところ、3ヵ月後には鼻水のネバつきが治まって、後鼻漏も減少。耳鼻咽喉科で検査し、副鼻腔炎が改善していることが確認できました。

当院には、このような副鼻腔炎の改善例が多数あります。副鼻腔炎でお悩みの人は、「あいうべ」と口テープをぜひ試してください。

画像: この記事は『壮快』2020年2月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2020年2月号に掲載されています。

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