一昔前まで近視は遺伝、老眼は老化現象で諦めるしかないと考えられていました。けれど、現代人の近視やスマホ労眼は、生活環境と目の使い方が一因です。ピント調節力を回復するには、目の中の筋肉をほぐし、水晶体の柔軟性を高めるストレッチが大切です。【解説】林田康隆(Y’sサイエンスクリニック広尾理事長)

解説者のプロフィール

画像: ※川上尚見撮影

※川上尚見撮影

林田康隆(はやしだ・やすたか)
医療法人社団康梓会Y’sサイエンスクリニック広尾理事長。医学博士。第二大阪警察病院(アイセンター)・医療法人セントラルアイクリニック執刀医。日本眼科学会認定眼科専門医。『1日1分見るだけで目がよくなる28のすごい写真』(アスコム)など著書・監修多数。

もうすぐ世界人口の半数が近視になる時代

私たちの目は本来、遠くのものを見やすく、近くを見ると疲れやすい構造になっています。

目のピント調節は、主にカメラのレンズに似た働きをする「水晶体」と、その周りの筋肉「毛様体筋」で行われます。

遠くを見るときは毛様体筋がゆるみ、水晶体を薄くします。近くを見るときは毛様体筋が縮んで、水晶体を厚くします。近くを見続けるのは、ずっと筋肉を緊張させて力こぶをつくり続けるようなもの。負担がかかるのです。

そもそも人類の歴史においては、長らく「遠くにピントを合わせる」ことのほうが自然かつ重要でした。

狩猟採集生活では、遠くにいる獲物や危険な敵をいち早く発見することが自らの生命に直結します。現在も、発展途上国で狩猟生活をしている人は視力がよいものです。

ところが現代社会では、ほとんどの人が手元を見る作業を中心に生活していて、アフリカのマサイ族すらスマホを持っている時代です。

顔から20‌cmほどの超至近距離でスマホの画面を長時間、見つめて過ごしていれば、目に負担がかかるのは当然です。

今までの論文からも、環境の変化が近視人口の増加原因になっていることは間違いないようです。

しかもスマホの画面は、ブルーライト(波長が短く強い光)を含む光を発しています。こんなに長時間、光源を見つめ続ける時代を迎えた私たちは、もっと見るということを大切に考えなければなりません。

しかし、あまり問題視されないまま、目を取り巻く環境は激変の一途です。この調子では、今後もさらに近視人口が増え続けるでしょう。

近年は、20~30代の若い人に起こる「スマホ労眼」も問題になっています。

いわゆる老眼は、主に加齢によって水晶体が硬くなることで起こります。私が危険視するスマホ労眼は、これまで老眼とは無縁だった若い人たちでも、至近距離を見続けることで毛様体筋が凝り固まり、ピント調節が上手くできなくなった人たちを指します。

しかし、このような目の不調も、指をくわえながら諦める必要はありません。

一昔前まで、近視は遺伝によるものだし、老眼は老化現象だから、諦めるしかないと考えられていました。

けれど、ここまで述べてきたように、現代人の近視やスマホ労眼は、生活環境と目の使い方が一因です。すなわち、これを改善すれば、進行をある程度は予防できると考えられます。

実際に論文でも、デスクワークと違って、比較的、遠くを見る屋外作業は、近視の進行を抑制し得ると発表されています。また、近くを見続けると、近視を進行させる可能性があるという研究もあり、これらは、目を使う環境が視力に影響を与えると示唆しています。

ペンさし運動は脳も鍛える!

衰えたピント調節力を回復するには、目の中の筋肉をほぐし、水晶体の柔軟性を高めるストレッチのような運動が大切です。

難しく考える必要はありません。要は、目をゆっくりと大きく動かせばいいのです。

そのためにお勧めなのが「ペンさし運動」です(やり方は下記)。ペン先にピントを合わせ、ペンを動かして、顔を動かさずに目で追います。

テレビ番組で、女優のいとうまい子さんにペンさし運動を行ってもらったところ、両目とも0.02だった視力が、右目0.08、左目0.09に回復。

視力は低い人ほど、数字が上がる意味は大きいと言えます。0.9の人が1.0になるのと、0.1の人が0.2になるのとでは、同じ0.1でも価値が全然違います。

画像: 頭を左右に動かさずに、目だけを動かそう

頭を左右に動かさずに、目だけを動かそう

ペンさし運動は一点を注視しつつ、ゆっくりと目を動かしていくのがポイントです。それによって、目の運動とともに、脳への刺激になります。

テレビのクイズ番組で「徐々に画像が変化していくのに気づくか?」という問題を見たことがないでしょうか。目は構造上、素早い動きに反応しやすく、遅い動きに反応しにくいので、時間をかけてじっくり変化するものは、タイミングよくその場所を見ていなければ気づきにくいのです。

これが意味するのは、私たちがものを「見る」ことには、実は脳の働きが大きく関わっているということです。しっかり見えているのは、中心付近のごくわずかで、多くは脳が補完しています。

これは、脳がパンクしないようにするためと考えられます。もし、視野の全ての部位が脳の神経と1対1で対応していたら、その情報量の多さは、想像を絶します。

ですから、四六時中の「ながらスマホ」では、常に脳へ負担をかけている不自然な状態と言えます。

環境の激変に体が追いつくことができない現代。今を生きる我々には、意識して、目に本来の動きをさせてあげることも大切なのです。

そのために、目の動きを意識できるペンさし運動をやってみましょう。

ペンさし運動のやり方

ペンさし運動は、目をゆっくりと動かし、目の筋肉をほぐすとともに、脳への刺激にもなり、ピント調節力を高めます。

なお、いつも同じ動きのパターンで行っていると、脳がペン先の動きを覚えてしまい、刺激が弱まります。ペン本体とキャップを持つ手を入れ替えたり、手を構える高さを変えたりと変化をつけながら、くり返すと、より効果的です。

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【用意するもの】
キャップタイプのペン
※キャップの大きさは問わない。ボールペン、サインペンいずれでも可

画像1: ペンさし運動のやり方

右手でペンのキャップを持ち、胸より低い位置で構える。左手はペン本体を持ち、頭より高い位置に上げる。1度まばたきをしてから、ペン先を両目で見る。

画像2: ペンさし運動のやり方

ペン先をじっと見つめながら、ペン本体をゆっくり(5秒ほどかけて)とキャップをめがけて動かし、キャップにペン本体をさす。終わったら、1度まばたきを行う。できるだけ顔を動かさず、目だけを動かすようにすること。以上で1回。1日20回行う。

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【ポイント】
ペンさし運動は、昼夜問わず、1日20回行うようにする。その際に、毎回、腕を伸ばしたり、縮めたりしてペンと目の距離を変えるとより効果的。

画像: ペンと目の距離を変える

ペンと目の距離を変える

また、ペン本体とキャップを、左右の手で持ち替えるのも、目の動きが変わるのでよい。毎回、変えてもいいが、上手にキャップにささらなければ、無理に変えなくても問題ない。

画像: ペンを持ち替えて高さも変える

ペンを持ち替えて高さも変える

画像: この記事は『安心』2020年2月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年2月号に掲載されています。

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