みそは現在世界中で研究が進められ、高血圧や糖尿病、肥満などの予防や整腸作用、抗がん作用などの健康効果が次々と分かってきました。豚汁にすると、野菜に含まれるカリウムで体内の余分な塩分の排泄も期待できます。【解説】渡邊敦光(広島大学名誉教授)

解説者のプロフィール

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渡邊敦光(わたなべ・ひろみつ)
広島大学名誉教授。熊本大学理学部卒業後、九州大学大学院博士課程理学研究科修了。1996年、広島大学原爆放射線医化学研究所で教授。専門は実験病理学と放射線生物学で、幹細胞に興味を持ち、長年にわたりがんの研究を続けている。みその有効性について動物実験に基づく研究を本格的に始める。著書『味噌力』(かんき出版)が好評発売中。

みそ汁を多く飲む方が高血圧のリスクが低い

[別記事:「やせる豚汁」の作り方→

健康のことを考えて、健康食品をとっているという人は少なくありません。しかし、日本人にとって、最も身近な健康食品「みそ」の力を見逃してはいないでしょうか。

みそに関しては現在、世界中で研究が進められています。その結果、高血圧や糖尿病、肥満などの予防や整腸作用、抗がん作用などの健康効果が、次々と分かってきました。

そもそも、私がみその研究に携わるようになったのは、1989年。当時の私は、放射線による消化管の変化やがんの発病について研究していました。それがある日、上司から「みその研究を手伝ってほしい」と頼まれたのです。

当初は「みその研究に意味があるのだろうか」と思いました。しかし実際に調べてみると、放射線で障害を受けたマウスの小腸腺窩(小腸の表面の内側にあるひたすら増殖を続けている組織)がみそで再生するという、驚くべき結果が出たのです。

その後も研究を続けた結果、みそにはさまざまな健康に役立つ力があることが分かってきました。そんなみその健康効果の一部をご紹介します。

●高血圧改善効果

血圧を下げるためには、食事の減塩が必要だとされます。

日本食は塩分が多いのが特徴です。しかし、日本人の平均寿命は、世界でもトップクラス。その理由は「塩分を多く摂取している割に、日本人は高血圧ではない」からです。

日本人、中国人、アメリカ人、イギリス人の40~59歳を対象としたある調査では、1日当たりの塩分摂取量は、日本人が一番多いという結果でした。しかし、血圧は日本人が一番低かったのです。

その理由は、日本人が塩分の多くをみそで摂取していたことと関係があると思われます。

私たちは2006年に、みそと血圧の関係を、ラットを使った実験で調べました。食塩感受性(食塩摂取で血圧が上がる体質)のあるラットに、みそを含むエサと、それと同じ塩分濃度(2.3%)の食塩を含むエサ、普通のエサを与えて、12週間様子を見たのです。

実験の結果、血圧が最も上がったのは、食塩を含むエサを与えたラットでした。一方、みそを含むエサを与えたラットは、普通のエサを与えたラットと、ほぼ同じ血圧だったのです。

みそ汁を1日2杯以上飲む人は、そうでない人と比べて、高血圧になるリスクが0.18倍であるという報告もあります。

みその大豆たんぱく質やイソフラボンは、血圧の上昇を抑えると考えられています。また、みその褐色色素であるメラノイジンには、血圧を上げるホルモンの生成を妨げる働きがあります。

他にもみそには、トラゾリン、エプレレノンやピロカルピン様の物質など、血圧降下作用のある物質が豊富に含まれています。みそによって、塩分と同時にこれらの物質もとっているため、日本人は、塩分摂取量の割には、血圧がさほど高くないのでしょう。

●糖尿病・肥満予防効果

食事の消化吸収が早過ぎると、食後に血糖値が急上昇し、肥満や糖尿病になりやすいことが分かっています。

みそのメラノイジンは、消化酵素の働きを抑制することで、食事の消化速度を遅くします。大豆たんぱく質には、血液中の総コレステロールやLDLコレステロール、中性脂肪を減らして、肥満を抑制する効果もあります。

●整腸作用

ラットを使った実験では、メラノイジンが、腸内の乳酸菌を増加させることが確認されています。

みそに含まれている、健康によい影響を与えると期待されている物質は、約60種類以上にも上ります。これらの物質の多くは、みその熟成・発酵が進むことで増加します。ただ、中には熟成年度がある程度長くなると、減少してしまう物質もあります。

私自身は、酒精などが添加されてない、2年熟成の辛口みそを使っています。健康維持や生活習慣病の予防のためには、1日2~3杯程度のみそ汁をお勧めします。

野菜たっぷりの豚汁はお勧め!

《みその主な成分と期待できる効用》
たんぱく質(ペプチド、アミノ酸)…コレステロールの減少、血管の弾力性保持、脳卒中防止、高血圧の防止
サポニン…過酸化脂質の生成防止、血中コレステロールの減少、動脈硬化の防止、肝障害の防止
イソフラボン…酸化防止、肩こりの予防、乳がん予防
トリプシンインヒビター…抗がん作用、糖尿病の防止
メラノイジン…過酸化脂質の生成防止、老化防止、糖尿病の防止、整腸作用
食物繊維…コレステロールの減少、大腸がんの予防、整腸作用

野菜や豚肉などで、ビタミンやミネラルを豊富にとれる豚汁も、もちろん、みそのとり方としてお勧めできます。

豚汁にすると、野菜に豊富に含まれるカリウムで、体内の余分な塩分(ナトリウム)の排泄も期待できます。どうしてもみその塩分が気になるという方は、豚汁でみそをとるとよいでしょう。

食事の最初に豚汁を、最後にご飯を食べれば、食後の血糖値の急上昇も抑えられます。また、具をよくかんで食べることも、血糖値の上昇や食べ過ぎを防ぐのにお勧めです。

[別記事:「やせる豚汁」の作り方→

画像: この記事は『安心』2020年2月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2020年2月号に掲載されています。

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