解説者のプロフィール

吉川永里子(よしかわ・えりこ)
収納スタイリスト。整理収納アドバイザー。自分自身の片付けの経験を基に、これまで10,000人以上に片付けをレクチャー。著書『鬼速片づけ』(アスコム)など多数。
部屋を片付けて就職が決まった!
今でこそ、片付けのお手伝いを仕事にしていますが、私も以前は片付けが大の苦手でした。
学生時代に初めて一人暮らしした部屋は床に物が散乱し、ベッドの上以外は、足の踏み場がない状態。留守中に来た母が、「あなたの家に泥棒が入っていたわよ!」と電話してきたほどでした。
転機が訪れたのは、22歳のとき。当時、カメラマンを目指してアシスタントになりましたが、すごく忙しいのに、生活できないほど給料が安く、とうとう体を壊し、挫折しました。
夢も仕事も失い、心身ともにどん底の中、残ったのはめちゃくちゃに散らかった部屋だけ。
「このままじゃまずい」と初めて「片付け」の本を読み、自分なりに実践しました。部屋が片付き、気分がスッキリしたと思ったら、すぐに就職が決まったのです。「やっぱり部屋を片付けると、いいことがある」と思いました。
その後、26歳のとき、仕事で関わっていた雑誌編集者から「吉川さん、いつもきれいに片付けてるよね。雑誌の企画で人の家の片付けをしてみない?」と声をかけてもらいました。それがきっかけで、この仕事に進むことになったのです。
振り返れば、一念発起して部屋の片付けをした時期に、私の人生は大きく変わりました。皆さんにも、そんないいことがあるかもしれません。
片付けできない三つの要因
片付けができない要因には、次の三つがあります。
①捨てるのが苦手:不要な物が捨てられず、家に物が溢れ、片付けにくい家に……。
②分類が苦手:分類して片付けるべき物を一緒くたに入れて、必要なときに何がどこにあるか分からず、全部ひっくり返して、常に散らかってしまう。
③収納が苦手:物を決めた場所に戻さず、その辺に出しっ放しにしてしまう。
これらを解消できれば、家は必ず片付きます。その対策をお伝えしていきましょう。ポイントは「全部出し」と「保留ボックス」の活用です。
まず、片付けをする場所を決めたら、そこにある物をいったん全部出して、床にシートなどを敷いた上に広げます。
そして、物を「使うか・使わないか」で判断し、不要な物は処分します。
大切なのは、自分にとって本当に必要な物を見極めること。「今、使っている物」「1年に数回は必ず使う物」「使わなくても、あるだけで幸せな気持ちになれる物」と選びます。

キッチンの全部出し。物が多くても全部出すのが大切
真剣に選別すると、家にある物のうち、半分以上は不要です。
物を減らすのは片付けの基本。当たり前ですが、物が少ないほうが片付けやすくなります。1回やってしまえば、あとは小さな入れ替えで済むようになるのです。
誰でも片付けが簡単になる保留ボックス
しかし、使うか・使わないかの判断に迷うこともあります。そんなときに有効なのが、保留ボックスです。目立つところに大きく「保留」と書いたダンボール箱を用意して、片付け中に判断に迷った物を入れます。
保留の選択肢があることで、片付け中に判断に迷って作業が止まることがなくなります。この保留ボックスは、家の中の嫌でも目に入る場所に置いておきます。
すると、だんだんじゃまだと感じるようになり、箱の中身のことが常に意識に上るのです。そして、本当に必要かどうかが判断できるようになります。必要な物はしかるべき場所へ収納し、残りは処分しましょう。
こうして残った「必要な物」を使いやすいように分類し、収納します。大事なのは、「これはどこにしまう」と決めて、物の居場所を作ることです。
その際、同じタイミングで使う物を一緒に、使う場所の近くに置くのがコツです。
例えば、掃除道具は全て1箇所にまとめるのではなく、お風呂掃除の道具はお風呂の近く、カーペットクリーナーはじゅうたんのあるリビングの近くに収納場所を作ります。
そうすれば道具をサッと取り、使い終わったらパッと元に戻せばいいだけ。片付けどころか、掃除の負担も減ります。
「ラベル」の活用も有効です。例えば、クローゼットの引き出しごとに「トップス」「靴下」「下着」などのラベルをはり、分類を守ってしまいます。
ラベルで明示すれば、物の居場所がハッキリし、いちいち考えることもなくなります。このように、無意識レベルで片付けできるのが大事なのです。
最初は、部屋全体などと欲張らず、「キッチンの引き出し一つ」から。短時間で片付けられそうな、狭い範囲に限定して取りかかりましょう。
実際やってみると、「いかに不要な物を多くしまいこんでいたか」など、必ず発見があります。そして、小さな2ヵ所でもスッキリ片付けば、「意外と簡単!」と自信も湧いてきます。
すると「次は、あそこを片付けよう!」という気持ちになれます。こうして小さな片付けを積み重ねていけば、やがて家全体がきれいに片付くのです。

片付けられない社員の
汚デスクをプロが即解決!
散らかり放題で「社内で最も汚い」と悪名高い『安心』編集部Kのデスクを、吉川永里子先生が片付けてくれました。あまりの変貌に編集部一同が驚いた、プロの片付けテクニックを誌上で公開!


無造作に積み上げられた本や書類、デスクの足下もグチャグチャ……

本人は「片付けた」と言うが、大して変わって見えない……

引き出し内は文具、日用品、書類が乱雑に押し込められている

「これが片付かない理由!」吉川永里子先生の分析
どこに何があるのか、まったく分からないデスク。分類、収納の意識ゼロ!これでは仕事の効率にも悪影響が及びそう。
Kさんは自分で「捨てるのは得意」と言っていましたが、きちんと必要な物を選別できていません。積み上がった山の中、引き出しの中にも不要な物がたくさん紛れているはずです。
STEP1【全部出し】

すべての物を種類ごとに仕分けしながら広げましょう
まずは床にシートを敷いて、机の上や引き出しの中の物を全部出し。
このとき、「書類」「文房具」「本」などのジャンルに分けて、同ジャンルの物は固めて置きます。こうすることで、あとで必要・不要の判断がしやすくなります。

STEP2【分類】

「使用頻度」で物を細かく分類
全部出しした物を一つずつ、必要か、不要かを判断します。このとき、必要と判断した物も「よく使う物」と「ときどきしか使わない物」と使用頻度で分けておきます。
文房具や書類などを使用頻度で分類。また、一つあれば済む物をたくさん持つのは散らかる原因のため、今回は、文房具でダブついている物は処分か、会社に返却としました。これは次の収納のステップで生きてきます。

■分類で5秒迷ったら保留ボックス&思い出ボックス

判断に迷った物は「保留ボックス」へ(前項参照)。今回は必要ではないが、思い出がある物を入れる「思い出ボックス」も設け、「前職の名刺」などを入れた。取っておいてもいいが、職場に置いておく必要はないとハッキリさせる。
STEP3【収納】

自分から近いところによく使う物を配置
デスク収納の基本は「よく使う物を近くに」です。
使用頻度の高い文房具はペン立てに、よく見る本はブックエンドを使い、デスク上に配置。また、電話機は手を伸ばしやすいデスクの左側に配置し、あまり手を触れることのないパソコン本体は右側に。使いやすいデスクになりました。

よく使う書類は最上段の引き出しへ



この記事は『安心』2020年1月号に掲載されています。
www.makino-g.jp