解説者のプロフィール

長尾美樹(ながお・みき)
ミキクリニック院長。香川県高松市出身。東京医科大学卒業後、香川大学形成外科、大阪大学形成外科を経て形成外科学会専門医となる。都内美容クリニックにて多くの美容外科症例を経験。2006年にミキクリニックを開院。診療科目は形成外科、皮膚科、美容皮膚科、美容外科。女性を中心とした幅広い層の患者のあらゆる肌の悩みに対応。丁寧なカウンセリングによる治療を提供している。
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高い粘性で肌にとどまり潤いを閉じ込める!
※肌に塗る際は、必ずパッチテストを行ってください。少量を塗ってしばらく時間をおき、様子を見て、赤みやかゆみなどの異常が現れたら、直ちに中止してください。
空気が乾燥する季節は、皮膚の乾燥に悩むかたが、少なくありません。老若男女にとって、乾燥は、肌の大敵です。
今回紹介する「ユズの種化粧水」は、保湿力に優れた手作りコスメ(化粧品)です。
ユズの産地をはじめ各地で伝承され、今に受け継がれてきた「おばあちゃんの知恵」的な物ですが、乾燥から肌を守り潤いを保つのに、役立てているかたが多くいらっしゃいます。
ユズの種化粧水の最大の魅力は、トロトロに溶け出した「ペクチン」による保湿力です。
ペクチンとは、植物の細胞壁などに存在する多糖類で、食物繊維の一種。果実で作ったジャムの、とろみのもとになる物質です。ゲル化剤として食品や化粧品に添加されることも多く、高い安全性があります。
ユズの内皮、ワタや種の周りには、ヌルヌルしたペクチンが豊富に存在します。ユズの種化粧水は、種を焼酎などに漬けて作りますが、ペクチンは水溶性なので、ひと晩もすると液体がトロトロしてきます。
ペクチンは粘性が高いので、さらりとした水分よりも、肌表面に長くとどまります。肌に潤いを閉じ込めて水分の蒸発を防ぐことで、保湿に効果を発揮。皮膚の乾燥による、かゆみの改善にも役立ちます。
ユズの種化粧水は、肌に塗った直後は、ヌルヌル、ペタペタした感じがありますが、愛用されているかたは皆さん「肌がしっとりする」「使ったあと、ツルツル、スベスベになる」といった感想を持たれています。これは、ペクチンに含まれる糖の働きとも考えられます。
そもそもなぜ、皮膚は乾燥するのでしょうか。
皮膚構造のうち、最も外側にあるのが、角質層です。ここには、アミノ酸や尿素、塩類などの「天然保湿因子」と、セラミドやコレステロールなどの「細胞間脂質」が存在します。
天然保湿因子の役割は、水分を含んで保持すること。一方、細胞間脂質には、細胞どうしをつなぎ、水分をとどめて保持する働きがあります。
そして、角質層を覆うのが、脂腺から分泌される「皮脂」。肌表面の膜となり、空気中に水分が蒸散するのを防ぎます。
皮膚の潤いは、天然保湿因子、細胞間脂質、皮脂の三要素が、過不足なく存在することにより成り立っているわけです。
ほうれい線やシワ、たるみの対策に
これらの三要素は、本来肌に備わっているものですが、加齢によりその機能が低下して産生量が減少します。
実際、肌のかゆみでクリニックを訪れる患者さんには、比較的高齢のかたが多く、皮膚の乾燥が原因である老年性皮膚掻痒症と診断される場合も多くあります。
乾燥が招く肌トラブルは、かゆみだけではありません。女性なら誰でも、顔のシワやたるみは、気になるところでしょう。
皮膚の表面が乾燥して角質層から水分が失われると、それが溝となり、シワになります。乾いた空気に水分を蒸発させないよう、しっかりと保湿することで、シワの発生を防ぐことができます。
肌のたるみにより引き起こされる、ほうれい線のような大きくて深いシワもありますが、乾燥もまた、たるみの一因です。
外側から保湿して、健やかな角質層を維持することは、肌の内側のハリの維持、ひいては、深いシワやたるみの予防・改善にもつながります。
さて、ユズの種をお酒に漬ける際、洗わずに漬ける場合もあれば、種をざっと洗い干してから漬ける場合もあるようです。作り方は人それぞれですが、洗わずにそのまま漬けたほうがペクチンが多く、早く溶け出すと思われます。
とはいえ、洗って乾燥させた種でも、ちゃんと、とろみはつきます。乾燥させた種を保存しておけば、旬の時季に限らず、いつでもユズの種化粧水が作れます。これは、大きなメリットです。
種を漬けるお酒については、保存性を優先するのであれば焼酎、それもアルコール度数の高いホワイトリカーがお勧め。日本酒は、焼酎より度数が低いので保存性では劣りますが、含まれるアミノ酸などによる美肌効果が期待できます。
アルコール刺激に弱いかたは水でも作れます。ただ、保存がきかないので、すぐに使う分だけ作るようにしてください。
ユズの種化粧水は、肌を乾燥から守り、潤いを保つのに、力を発揮してくれます。産地周辺の地域で昔から作られ、先人に愛用されてきたという事実が、この化粧水の実力を示しているといえるでしょう。
■ユズの種化粧水は美肌に有効!
ペクチンの高い粘性
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水分の蒸発を防ぎ保湿に効果
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シワやたるみを撃退!かゆみの改善にも効果的!

「ユズの種化粧水」の作り方

【材料と用意する物】
・ユズ…適量
・ユズの種のかさの3~5倍量の酒(焼酎または日本酒)
※酒の量が少ないととろみが強くなり、多いとさらりとした仕上がりになる。好みで調整。
・種と酒が入る容量の瓶、ザルとボウル、詰め替え用の瓶
※瓶はふたつきで、密閉でき、アルコール耐性のある物。ガラス製がお勧め。あらかじめ煮沸するか、アルコールで消毒しておく。

【作り方】
❶ユズから種を取り出す。
※皮や果汁は使わないので、料理に活用する。

❷種を洗わずに瓶に入れ、種の3~5倍量の酒を注ぎ入れ、ふたをする。

❸常温に3日~1週間ほどおく。ときどき振り混ぜる。淡く色づき、とろみがついたら出来上がり。

❹ザルでこして、使いやすい瓶に詰め替え、冷蔵庫で保存する。1ヵ月ほどで使い切る。
※種は化粧水を作るのに再使用しない。
「ユズの種化粧水」Q&A
Q1. どうやって使うの?
A1.
顔や体に、そのままつけてOKです。ただし、必ずパッチテストを行ってください。ひじの内側など目立たない部分に少量を塗り、しばらく時間をおき、様子を見ます。赤みやかゆみなどの異常が現れたら、直ちに中止してください。

Q2. 光毒性の心配は?
A2.
紫外線に当たるとシミを作りやすい作用(光毒性)は、柑橘系の精油の一部などに見られますが、ユズにはそれがないとされています。また、種に光毒性があるというデータも見当たりません。
心配な場合は、肌につけたあとに日焼け止めを塗るか、それでも気になるかたは、夜だけの使用にとどめるといいでしょう。
Q3. 肌がアルコールに弱い場合は?
A3.
酒のかわりに水を使い、同様に作ることができます。ただし保存がきかないので、作った当日から冷蔵庫に入れ、とろみがついたら使い始めて、1週間ほどで使い切ってください。

Q4. お酒の選び方は?
A4.
香りや使用感などの好みで選んでかまいません。アルコール度数が高いほど保存性に優れますが、そのぶん、肌への刺激は強くなります。
Q5. 年中通して使うには?
A5.
作った化粧水は、冷凍保存もできます。使うときは自然解凍で。洗って乾燥させた種を保存しておいて作ることもできます。

この記事は『壮快』2020年2月号に掲載されています。
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