解説者のプロフィール

今津嘉宏(いまづ・よしひろ)
芝大門いまづクリニック院長。慶應義塾大学病院などで外科と漢方の研鑽を積む。西洋医学と東洋医学を活用した総合的な診療に定評がある。
湯通しすることで栄養素の摂取量が増加
私のクリニックでは、内科と外科、漢方外来のほか、栄養相談や食事指導も行っています。慶應義塾大学病院の外科に在籍中、手術後の患者の生活管理をするなかで、栄養学の重要性を学んだことが影響しています。
昨今、「熱湯をかける」という絶妙の加熱法で青臭さが抜け、口当たりもソフトになると、「湯通しキャベツ」が話題のようです。
この調理法は、さまざまな面で優れています。
まず、衛生面です。キャベツのように土に接する葉野菜には、雑菌がついています。熱湯をかけることで、そうした菌を減らすことができます。
湯通し程度の加熱であれば、栄養素の流出は心配いりません。逆に、湯通しすることで食べやすくなり、毎日とり続けることができるので、栄養素の摂取量は多くなります。
さらに、湯通しキャベツを食事に取り入れることで、ダイエットに成功する人が多いようです。これはなぜでしょうか。
私たちの満腹中枢は、食事の開始後、約20分で反応するといわれます。「早食いは太る」というのは、脳が満腹を感じる前に食べ進めてしまうからです。
湯通し程度の加熱なら、シャキシャキとした歯触りが残るので、時間をかけて噛むうちに満腹感を覚え、食べ過ぎを防げるのです。
脳に作用し食欲を抑制!インスリンの分泌も促進
次に、数ある野菜のうち、なぜキャベツなのか?というお話をしましょう。
キャベツの有効成分というと、ビタミンU(通称・キャベジン)を挙げる人が多いでしょう。確かにビタミンUは、胃の粘膜を保護・修復する作用を持ち、市販の胃薬にも使われるほど優れた成分です。
でも、私が着目するのは、キャベツのビタミンCです。ビタミンCは水溶性ですが、熱湯をかける程度ならほとんど流出しません。
私たち日本人は、ビタミンCの多くをキャベツから摂取しているという論文があります(「日本家政学会誌」1985年Vol.96、1990年Vol.41)。
赤ピーマンやアセロラなど、100g当たりのビタミンC含有量の多い野菜や果物なら、ほかにもあります。しかし、一年中入手しやすく、調理法が多岐にわたる食品は、キャベツをおいてないでしょう。
ビタミンCには、血管や骨、軟骨、皮膚などを健康に保つほか、ストレスや、カゼなど感染症に対する抵抗力を高める働きもあります。
また、老化の元凶物質である活性酸素を抑制するので、動脈硬化やガンの予防、アンチエイジング効果も期待されています。
もう一つ、私が注目しているのが、食物繊維です。
厚生労働省が推奨する食物繊維の摂取量は、1日約20g。しかし現在、日本人の平均摂取量は1日15g前後と推定され、目標には約5g足りていません。
キャベツの食物繊維含有量は、100g当たり1.8g。1日300gのキャベツを食事に加えると、食物繊維の摂取量は20gに達します。キャベツ300gは、約1/3玉。生のままでは難しくても、湯通しして2〜3回に分ければ、1日で食べられる量でしょう。
食物繊維は、便秘改善→体重減少とイメージされるかもしれませんが、実は直接、肥満撃退に関与するとわかっています。
食物繊維は、消化酵素で分解されず大腸に届き、腸内細菌のエサになります。その過程で、酪酸やプロピオン酸、酢酸などの短鎖脂肪酸が産生されます。
酪酸やプロピオン酸は、食欲を抑え、満腹感を持続させて過食を防ぐ腸管ホルモンを分泌します。
酢酸は、脳に直接作用して、食欲を抑える働きがあります。つまり、短鎖脂肪酸は食べ過ぎを防いでくれるのです。
また、ヒトの細胞には、短鎖脂肪酸に結合する受容体がいくつか存在します。
その一つであるGPR41は、血管や臓器を調整する自律神経のうち、心身を活動モードにする交感神経に多く存在します。
GPR41は、エネルギーバランスを一定に保つセンサーで、食べ過ぎを感知すると交感神経を刺激してエネルギー消費を高めます。食べ過ぎた分を、燃焼しやすくしてくれるわけです。
これらのことから、食物繊維をとると、太りにくくやせやすい体になるといえるでしょう。
さらに、食物繊維は、糖尿病の予防・改善にも役立ちます。糖尿病は、血糖値を下げるインスリンの量や効力が低下することで起こる病気です。
食物繊維が発酵してできる酪酸は、GLP-1という腸管ホルモンの分泌を促します。GLP-1は血糖値が高いときだけ膵臓に働きかけ、インスリンの分泌を促進し、血糖値を下げるのです。
湯通しキャベツは、こうした栄養素を効率的にとれる優良食品です。毎日の食卓に取り入れて、健康の維持・増進に役立ててください。
■湯通しキャベツの有効成分と効果

〈ビタミンC〉血管や骨、軟骨、肌の健康保持。ストレス、感染症への抵抗力アップ。動脈硬化、ガン、老化の予防。
〈食物繊維〉便秘改善。過食予防。エネルギーの燃焼促進。糖尿病の予防・改善。
〈ビタミンU〉胃粘膜の保護・修復。

この記事は『壮快』2020年2月号に掲載されています。
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